タイマン


彼はブラシが大嫌い。だっこだっことせがんでいても「ブラシする?」と囁いた途端にくるっと背を向けて小走りに去っていく。
『しょーがないだろー、お前全身モジャモジャなんだからサ』の理屈は当然通じない。

幼少のみぎりはそりゃそりゃそりゃーー大変だった。
生まれ月の関係で季節が冬で長袖であったお陰で、あまり世間様を驚かせずには済んだが、手先は隠せない。
黄色とか紫とか青に変色した手に、打ち合わせしているお客さんは、ぎょっとした顔をした。
仕方ないのでこちらから「PDV(ペットドメインバイオレンス)なんですぅ」と愛想笑いしておいたゼ。

まぁ色々苦労した結果、最近はこの程度ですんでいる。
顔は凄いしうーうー謂っているが、攻撃の矛先はこちらに向かわない。目が合えば黙り込む。
攻撃は専ら憎きブラシに向かう(それはそれで邪魔だから、ヤメレ)。

ついでに謂うならブラシしているこっちが苦労してご奉仕しているというのに、
なんでブラシが終わった後でご褒美を貰うのはお前なの?
……「我慢して良い子だったねー」とは謂うけどね。